思考のクセを変える「セルフ認知行動療法」の始め方|専門家が5ステップで解説
「また同じ失敗をしてしまった」「どうせ自分なんて…」と、特定の状況でいつも同じネガティブな思考に陥ってしまうことはありませんか?その原因は、あなたの性格ではなく、無意識のうちに身についた「思考のクセ」にあるかもしれません。
この記事では、臨床心理学の分野で広く用いられている「認知行動療法(CBT)」を、自分一人で実践できる「セルフケア」の方法として、5つの具体的なステップで分かりやすく解説します。
この記事を読めば、なぜ自分がネガティブな思考に陥りやすいのかを客観的に理解し、明日から思考のパターンを少しずつ変えていくための具体的な第一歩を踏み出せるようになります。
ステップ1:認知行動療法(CBT)の基本を理解する

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出来事が感情を直接作るのではなく、その間の「考え方(認知)」が感情を生む、というのが認知行動療法の基本です。
まず、認知行動療法(CBT)の最も基本的な考え方を理解しましょう。それは、ある「出来事」が起きたとき、それが直接的に私たちの「感情」や「行動」を引き起こすわけではない、という考え方です。
実際には、「出来事」と「感情」の間に、私たち一人ひとりが持つ特有の「認知(考え方・受け取り方)」が挟まっています。この「認知」がフィルターとなって、私たちの感情やその後の行動を方向づけているのです。
認知のモデル(例)
- 出来事:友人からのLINEに既読がついたが、返信が1日来ない。
- 認知(考え方):「何か気に障ることを言ってしまったのかもしれない」「嫌われたんだ…」
- 感情:不安、悲しみ、焦り
- 行動:何度もスマホを確認する、追いLINEを送ってしまう。
もしここで認知が「忙しいだけだろうな」であれば、感情は「心配なし」となり、行動も変わっていたはずです。このように、変えるべきは出来事そのものではなく、私たちの「認知」である、というのが認知行動療法の出発点です。
ステップ2:「自動思考」に気づく練習をする

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心がザワっとした瞬間に「今、自分はどんな考えが浮かんだ?」と自問自答し、思考を客観視する練習を始めます。
次に、自分の「思考のクセ」の正体である「自動思考」に気づく練習をします。自動思考とは、ある状況で無意識に、自動的にパッと浮かんでくる考えのことです。多くの場合、この自動思考がネガティブな感情の原因となっています。
練習は簡単です。日常生活の中で、少しでも気分が落ち込んだり、不安になったり、イラっとしたりした瞬間に、一度立ち止まって自分にこう問いかけてみてください。
「今、頭の中でどんな考え(言葉)が浮かんだ?」
最初は難しいかもしれませんが、意識的に繰り返すことで、これまで無自覚だった自分の思考パターンが見えるようになってきます。「どうせ自分には無理だ」「きっと失敗する」「みんな私のことを悪く思っているに違いない」といった、特定の口癖のような思考に気づくことが、セルフ認知行動療法の重要なステップです。
ステップ3:思考記録(コラム法)をつけてみる

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ノートに「出来事」「感情」「自動思考」を書き出すことで、自分の心を客観的に分析するツールを手に入れます。
自動思考に気づけるようになったら、それを記録する習慣をつけましょう。最も代表的な手法が「コラム法」と呼ばれる思考記録です。まずは簡単な3つのコラム(列)から始めてみましょう。
ノートやスマートフォンのメモ帳に、以下の3つの項目を書き出すだけです。
| 1. 状況・出来事 | 2. 感情(点数) | 3. 自動思考 |
|---|---|---|
| (例)上司に資料の修正を指示された。 | 落ち込み(80点)、不安(70点) | 「自分の作った資料はいつもダメだ」「能力がないと思われたに違いない」 |
ポイントは、感情に点数をつけることです。これにより、自分の感情の強さを客観的に把握できます。この記録を続けるだけで、自分がどのような状況で、どのような思考に陥り、どれくらい強く感情が動くのかという「心の地図」が手に入ります。
ステップ4:「別の考え」を探す(認知再構成)

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自動思考に対して「本当にそうか?」と反論し、より現実的でバランスの取れた考え方を見つける練習です。
コラム法に慣れてきたら、ステップアップです。自動思考に対して、意識的に「別の考え方」を探す練習をします。これは「認知再構成」と呼ばれる、認知行動療法の中心的な技法です。
ステップ3で書いた自動思考の横に、4つ目のコラム「適応的思考(別の考え)」を追加します。そして、自動思考に対して以下のような視点で反論を考えてみましょう。
- その考えを裏付ける客観的な証拠は?
- 逆に、その考えと矛盾する事実は?
- もし友人が同じ状況で同じように悩んでいたら、何と声をかける?
- 最悪の事態だけでなく、最もありえそうな結果は?
(例)自動思考:「自分の作った資料はいつもダメだ」
→ 適応的思考(別の考え):「いつもではない。前回は褒められた箇所もあった。上司はより良くするためのフィードバックをくれただけかもしれない。」
この作業は、ネガティブな思考を無理やりポジティブに言い換えることではありません。極端な白黒思考から抜け出し、より現実的でバランスの取れた、柔軟な見方を手に入れることが目的です。
ステップ5:小さな「行動実験」を試す

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新しい考えが本当かどうかを確かめるために、少しだけいつもと違う行動を試してみる、安全な実験です。
最後のステップは、行動を変えることです。ステップ4で見つけた「適応的思考」が本当にそうなのかを確かめるために、小さな「行動実験」を計画し、実行してみます。
(例)自動思考:「どうせ会議で発言しても、誰も聞いてくれないし、馬鹿にされるだけだ」
→ 適応的思考:「全員が馬鹿にするとは限らない。まずは事実を確認する質問を一つだけしてみよう」
→ 行動実験:「次の会議で、批判や意見ではなく、事実確認の質問(例:『このデータの出典はどこでしょうか?』)を一度だけしてみる」
この実験の目的は、壮大な成功を収めることではありません。「発言しても地球は爆発しなかった」「意外と普通に聞いてもらえた」という小さな事実を体験することです。この小さな成功体験が、凝り固まったネガティブな自動思考を少しずつ溶かしていく最も強力な力になります。
セルフ認知行動療法は、一朝一夕で完璧にできるものではありません。しかし、この5つのステップを意識して少しずつ実践することで、あなたの思考のクセは確実に変わり始め、より生きやすい毎日を手に入れることができるでしょう。


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